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人生朝露

人生朝露

「The Zen of Steve Jobs」と荘子。

荘子です。
荘子です。

参照:スティーブ・ジョブズと禅と荘子。
http://plaza.rakuten.co.jp/poetarin/5010

スティーブ・ジョブズと禅と荘子 その2。
http://plaza.rakuten.co.jp/poetarin/5077

スティーブ・ジョブズと禅と荘子 その3。
http://plaza.rakuten.co.jp/poetarin/5100

『The Zen of Steve Jobs』
今まで、ジョブズと禅の関連について何度か触れてきたので、先月日本語版が出版された『The Zen of Steve Jobs』について。ジョブズ関連の本の中でも特殊で、漫画で描かれているし、果たして売る気があるのかも不明ですが、それだけに個人的には気に入っています。

ここまでやるなら玉吉に!
試行錯誤の末に、この形に落ち着いたようで、桜玉吉を思わせる作風の変化がいいですね。
原作者ケイレブ・メルビーが実際に禅寺で体験したことをもとに、スティーブ・ジョブズと乙川弘文との関わりを、トレースするような形で描いています。西洋人の中ではとても際だつ思考方法や、デザインについての認識や人生哲学について、ジョブズの人間像を知る一助となると思います。

禅と荘子なんて関係ない、と思われるかも知れませんが、
表紙の右上。
あるんですよ。

『The Zen of Steve Jobs』 射。 『The Zen of Steve Jobs』書。 
それは、「射」であったり、「書」にもあらわれます。お釈迦様にはない知恵が入っていますよね。

参照:中島敦「名人伝」と荘子。
http://plaza.rakuten.co.jp/poetarin/5014

Zhuangzi
『工?旋而蓋規矩、指與物化、而不以心稽、故其靈臺一而不桎。忘足履之適也。忘要、帶之適也。知忘是非、心之適也。不?變、不外從、事會之適也。始乎適而未嘗不適者、忘適之適也。』(『荘子』達生 第十九)
→工錘(こうすい)と言う名工は定規やコンパスなど使わずとも、真っ直ぐな線や真円を描くことができた。指が筆と一体となり、虚心のまま筆を進めることができたからだ。彼の心は一切の迷いがない。靴を履いている足の事を忘れるのは、足の型ににぴたりと合っているからだ。帯を締めている腰のあることを忘れるのは帯が腰の型にぴたりと合っているからだ。同じように、善悪・是非の判断を忘れているのは、心が自然と一つになるからだ。外物に振り回されないのは、内のありようと外のありようが逆らっておらず、安定していることにある。そして、自適の境地にから始まって、自適であるということすら意識しなくなる時こそ、本当の意味での忘我の境地といえる。

「内のありようが外にあらわれる」ということについて、『荘子』という書物ほど多彩な記録を残す古典はないでしょう。『荘子』には、いわゆる知識階層の人々だけでなく、職人や音楽家、画家、漁師、百姓、水泳の達人、虫取りの名人等々、多様な人間の営みへの視点があります。驚くべきはその観察眼の鋭さとそれを文字に落とす表現力です。この身体性を伴う点において、インドのヨーガとはまた違った形で老荘思想が禅仏教に与えた影響が垣間見えます。日本で言うところの「弓道」「書道」における「道」です。禅が宗教であるならば、おそらく世界で最も説明のしにくい宗教だと自分は思っていますが、『老子』や『荘子』の影響は、目に見える形でもその名残をとどめています。

・・・文字を情報としてとらえるとして「データとしての文字」よりも「文字を書く」という身体的表現の方が、データとして大量のものを扱っているということが分かります?

Zhuangzi
『且子獨不聞壽陵餘子之學行於邯鄲與?未得國能、又失其故行矣、直匍匐而歸耳。今子不去,將忘子之故、失子之業。』(『荘子』秋水 第十七)
→あなたは、寿陵の若者が邯鄲の都に歩き方を学びに行った話を聞いたことがないかね?その若者ははやりの歩き方を学ぶことも半端なまま、本来の歩き方すら忘れて、這いずりながら故郷の寿陵に帰ったそうだよ。

参照:ナンバ歩き-甲野善紀-
http://www.youtube.com/watch?v=DC66NZj8pJ4

・・・機械に人間並みの計算をさせることより、機械を人間並みの歩行をさせることの方が遙かに難しいということが分かります?

ジョブズ。
≪頭で理解することより、体験に価値を置いているんだ。深く考えている人はたくさん見てきたけど、いろいろなところにたどり着けている印象はあまりないんだよね。頭で抽象的に理解することより重要なものに気づいた人に、すごく興味があった。(禅への傾斜についてのジョブズの言葉)≫
≪集中力もシンプルさに対する愛も、「禅によるものだ」とジョブズは言う。禅を通じてジョブズは直感力を研ぎすまし、注意をそらす存在や不要なものを意識から追い出す方法を学び、ミニマリズムに基づく美的感覚を身につけたのだ。(『スティーブジョブズ2』より)≫

・・・この辺になると「意識」の問題。
こういうのは「武道」で考えると分かりやすいと思われます。

例えば、
御輿芝喜平 その1。
「そもそもこう突かれたらこう躱す、蹴られたらこう捌く、

御輿芝喜平 その2。
このような些末な 技術にとらわれているようでは下の下。真(まこと)の護身を身につけたなら 技は無用。」「 危うきには出逢えぬ 己の危機に気付くまでもなく、そこに辿り着けんのじゃよ。(御輿芝喜平(合気道の祖・植芝盛平がモデル)の言葉)」

参照:Wikipedia 合気道
http://ja.wikipedia.org/wiki/%E5%90%88%E6%B0%97%E9%81%93

参照:共時性と老荘思想。
http://plaza.rakuten.co.jp/poetarin/5093
ユングが「共時性(シンクロニシティ)」を老荘思想や、易経に求めたのは、「こうしたら、ああなる」「こうなったら、ああしよう」というような、西洋において伝統的な「因果的思考」に囚われない方法論を求めた結果なんですが、これは、「武道」においてはもっと切実に希求される事柄であります。無駄な思考が「恐れ」や「迷い」といった感情の起伏となって判断を誤らせたり、身体の動きに如実にあらわれてしまうし、当然ながら「言葉で考えている暇がそもそもない」んですよ。

参照:武道と田舎荘子。
http://plaza.rakuten.co.jp/poetarin/5013
猫も言っているように、自然に応じるしかないんです。

Zhuangzi
無名人曰「汝遊心於淡、合氣於漠、順物自然、而無容私焉、而天下治矣。」(『荘子』応帝王 第七)
→無名人曰く「あなたが、心を淡に遊ばせ、漠に気を合わせ、物の自然に従い、私を容れることなければ、すなわち天下も治まるだろう。」

「合気」「自然」「無私」と、日本武道において今でも『荘子』の言葉は息づいています。特に合気道のありようは「無為にして自然」そのものです。老荘思想というのは、西洋でいうところの「思想」という枠の外なんですよ。元レスラーのプラトンと喧嘩やったら荘子は負けるでしょうが(笑)、弟子たちで戦わせたら、文句なしに『荘子』の勝ちです。

ちなみに、前掲の刃牙シリーズの板垣恵介は、塩田剛三さんと面識もあったようで、この辺の理解がずば抜けて深い漫画家なんですが・・・

参照:達人VS怪物
http://www.youtube.com/watch?v=Rl5P8HrxuI4&feature=related

『史上最強の哲学入門 東洋の哲人たち』 飲茶著。
今月出た『史上最強の哲学入門 東洋の哲人たち』という本の、表紙に騙されました。老荘思想と禅仏教との関連性を語るとか、クオリアを含めた心脳問題であったり、水槽の脳と絡める(なんかどこかのブログで読んだような(笑))のはまだいいとして、仏教思想の理解にも致命的な欠陥が見られます。また、最後の『荘子』の訳が無茶苦茶。天道篇の「機心」の前後をあのように読むのは無理筋でしょう。その上、あとがきで、

≪東洋哲学がそれほど素晴らしいというのであれば、それらが生み出された国々はとっくの昔に極楽浄土になっているはずである。しかし、実際にはそうなっていない。インドではいまだにカースト制度という迷信による差別問題が残っているし、中国では文化大革命による虐殺や廃仏が起きてしまった。東洋哲学発祥の地ですらこうなのだ。単純に東洋哲学を採用したからって、パラダイスができるとは到底思えない。結局「結果」が出せていないという明確な事実(歴史)があるのだから、東洋哲学にはまだまだ改善の余地があると見た方が良いだろう。(同著より)≫

などとあります。板垣恵介のお墨付きと思っていたけど、目線の高さだけ天内悠。「バランスのいい山本選手」相手ですら危うい(泣)。禅や老荘思想を扱ってあとがきにこの言葉は出るはずがないです。せめてイラストを描いた人のレベルまで深めていただきたかったです。どうやら著者は西洋哲学が専門の人らしく、西洋思想の枠の中でしか東洋思想を語れていなし、歴史の知識も浅い。明確な教義のない禅は、禅僧ですら言葉にしにくいのに、理屈だけで禅を解説しようとして、逆に本質が見えなくなってしまっているのはどうにかならなかったんでしょうか?

上等な料理にハチミツをぶちまけるがごとき思想!
『上等な料理にハチミツをぶちまけるがごとき思想!!』
人為加えて何する気?

ま、でも一致する視点もあるので、オススメしておきます。

今日はこの辺で。


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